DOGS AND BOOKS

人生は犬と一緒に歩いて身近な自然にかくれた秘密を探す旅。とくに犬に学ぶ旅は終わりのないライフワーク。

記憶力の衰えに抗えるか?

沖縄に長いこと台風が居座っているようですね。

停電している地域もあって暑いところなのにどんなに大変だろうかと胸が痛みます。

一刻も早く復旧しますように。

 

さて,TwitterX(何が正式名称でしょう?)でフォローしている読書セラピストの井田祥吾さんが紹介していた本を読みました。

 

sapporozerodokushokai.com

 

実は,積読書の一冊でした。井田さんが紹介されているのを見て『確かうちにあったな…。』と思い出しました。きっかけをくださってありがとうございます。

 

池谷裕二著「受験脳の作り方ー脳科学で考える効率的学習法ー」新潮文庫,2011

 

四苦八苦しながら勉強している受験生に向けて,脳,特に海馬の機能からどうやって学習すればより効率良くなるのかを解説しています。

 

まず,脳というのは「人間だけのために発達してきたものではない」という前提から始まります。

すでにここで,『あっ』とコロンブスの玉子感がありました。

 

人間が文明を発達させて現在のような生き方を手に入れたのは長い進化の歴史では,ほんの最近のことに過ぎない。

だから,それ以前のもっと長い間,動物の脳として発達してきた訳なので,動物の脳の働きを知れば,そこに人間の脳の本質も見えて来ると池谷さんはおっしゃいます。

 

常々「人間も動物だ。」と言って来たわりには,こんなところでハッとする自分を発見して少々驚いてしまいました。

 

海馬というのは,記憶を司る関所みたいなものだそうです。

たくさんの情報は関所で要るか要らないか=記憶として留めるか捨てるか,振り分けられる。

そのときの,基準は「生きるために重要かどうか?」だそうです。

人間の教養や学問として重要かどうかではない。

それがないと生きられないというものはすみやかに記憶に留められる。

ここらへんが,長らく動物の脳として発達してきた所以ですね。

 

多くの受験生が頑張っている入試に必要な知識というのは,海馬にとっては取るに足らない,どころか全く不要なものということ。それを知らないから即死んでしまうというものではありませんから。

 

ここまで読んだだけでも,こりゃあ勉強するって大変だぞ!!と危機感が高まりますね。受験生なら絶望的な感じになるかもしれない。

 

でも,ここからが池谷さんの優しさがじわじわ来ます。

つまり,人は忘れてしまうのが当たり前なのだと。

なぜなら,生きるのに必須じゃないものは全部海馬で捨てられているから。

 

そうかあ。忘れるように出来ているんだな,脳は。

なんだかほっとします。

というのも,もとから忘れっぽいのに最近はさらに忘れやすくなって,さすがに年には勝てないとしょんぼりしていた私ですから。

 

たくさんの研究結果から導かれる,海馬の機能とその特徴が分かり易く書かれています。しかも,受験生の体験談が語られ,それに池谷さんが答えるという形で,実用的な学習のしかたがたくさん紹介されています。

でも,それらは決してみんながあっと驚くような裏技的なものや,奇抜なやり方ではないというところが,私にはとても信頼できました。

 

継続は力なり

 

ありふれた言葉ですが,それがなぜなのかを多くのエビデンスを持って解説してくれています。

そして,コツコツとやり続けることがどれだけ威力を発揮するのかも,わかりやすい数式とグラフで示してくれています。

そのことで,ただただ闇雲にやるのとは違い,自分の努力が今,山登りのどこらへんにいるのかも推測できる。それは,成果がなかなか見えず辛いときの支えになるかもしれない。

先の見えない努力をし続けるのは,誰にとっても大変ですもんね。

 

受験生にはもちろんですが,私のように「なんだか最近忘れっぽくて…。」という熟年層の方も読まれると,少し安心できるかもしれません。

 

 

そして,最後に恒例の(笑)Dog Person的読み方をひとつ。

 

それはあとがきに書かれていました。

 

出来る人とそうでない人の差は勉強するときのささいな差であることの説明として次のような実験結果が紹介されています。要約します。

 

ネズミのヒゲにものが触れたときの神経活動を記録した結果として

  • ただ,待っているだけのネズミ
  • 積極的にヒゲを動かして触りに来たネズミ

の神経活動を比較したところ,後者のネズミ,つまり能動的に情報を得たほうが,前者の受動的に情報を得たときの10倍も神経細胞が活性化したそうです。

ヒゲに触れたものは同じものだったのに。(以上262頁から要約)

 

人間なら,誰しも直感的にわかりますよね。

嫌々やるより自らすすんでやったほうが効果が高いことはよく経験することです。

それはネズミだって同じなんだと。

 

ここで,Dog Personならビビッと来ます。犬もそうだろうなあ。

たとえば,犬の散歩。

犬たちが能動的に匂いを嗅ぐことは,すなわち,脳の活性化になっている。

そして,トレーニング。

楽しいことなら,自らもっとやりたいと思うはず=能動的になるでしょう。

 

頭の良い犬にしたいから,ということではありません。

犬がより生き生きと張り合いのある時間を送ってほしいから。

 

あらゆる場面で,犬が自らすすんで行動することを尊重したい。

そうは言っても,人間社会では許されないこともあるので,それらを教える必要があります。

でも,それを教えるときも嫌悪刺激で従わせるのではなく,楽しく教えてあげたい。

そして,散歩中の匂い嗅ぎ。この能動的な行動はたくさんさせてあげたい。

そう思います。

 

そして,私自身も楽しい勉強をコツコツと諦めずにやっていこう。

(実は,池谷さんの脳に関する別の書籍,犬の学び舎で推薦図書にもなっています。)

 

今日も読んでくださってありがとうございました。